2007年05月15日

「シュレーゲ・ムジーク」と「斜め銃」

日本では月光が爆撃機の要撃に機体背面に斜めに背負った機関銃を使用して活躍しましたが、ドイツでも夜戦が同様な斜めに装備した銃を1943年より投入して効果をあげました。ドイツではシュレーゲ・ムジーク(Schrage Musik - aはウムラウト)と呼称されました。Defending the Reichにもシュレーゲ・ムジークを使用した攻撃では爆撃機からの防御放火は受けないという特別ルールがあります。(ただしプレーヤーに選択権はないのでフレーバー的なルールではあります)

「シュレーゲ・ムジーク」はドイツ語で「斜めの音楽」という意味ですが、Schrage(斜め)には奇妙なとか調子はずれとかいう意味があり、クラシックの国であるドイツがアメリカの音楽であるジャズを揶揄した言葉のようです。
「ブラッカムの爆撃機」ではドイツの夜戦パイロットがブラッカムのウェリントンを撃墜しようと近づくときに「ジャズを一曲聞かせてやろう」とつぶやきます。

シュレーゲムジークは機体に対して60-70度の角度で取り付けられ、照準はキャノピーの上に取り付けたRevi 16Nという電映照準器で上を向いて照準します。
ドイツ側ではシュレーゲムジークの存在を隠すためにシュレーゲムジークには通常の曳光弾を交ぜませんでした(その代わりにあまり光らない特殊な方式を使用したようです)。そのため長く秘密が守られていましたが、そのうちに機体の被弾痕の状況などから存在が知られるようになったようです。
機上レーダーは英軍によりすぐに対抗措置がとられてしまいましたが、シュレーゲムジークには最後まで有効な対抗策はなく、下方監視窓を増設したくらいのようです。


さて、前述したように日本にもこのような斜め銃がありました。ラバウルで小園少佐が考えて月光に主に取り付けられたものです。ただしドイツのシュレーゲムジークと日本の斜め銃の大きな違いは日本の斜め銃が30度で、シュレーゲムジークが60-70度という倍くらいの角度差があることです。
あまり従来はこの差についてまで議論が及びませんが、ここではその点に考察を加え、さらには当時おかれていた日独の違いについても考えて見たいと思います。

よく小園氏のアイデアがドイツにいって、という話もありますが、実のところ敵機の下から狙うために斜めに銃を設置するというアイディアは第一次大戦のころから存在していました(また日本においても日華事変においてそうした試験がされたこともあったようです)。
というのは当時の主力であるSE-5aのような機体はプロペラ同調の関係で翼の上部に機銃をすえつけていたため、そうした細工をしやすかったわけです。当時は射撃照準装置の関係でさほどの命中率が得られるわけではなかったようですが、旋回機銃は固定機銃に比べて精度が1/7程度になるという話もあるので旋回するよりは固定で角度をつけたほうが良いわけです。
WWIIのドイツでだれが発明(再発見)したかという定説はありませんが、60度という角度はTarnewitzのルフトバッフェ・テストセンターで42年にテストして定まったということですので、少なくとも日本伝来ということはないでしょう。

シュレーゲムジークのことを語る前にまず当時のドイツ夜戦の攻撃方法についてはじめねばなりません。
当時の夜戦は敵機の後方につくとまず敵機の後下方に占位しました。またレーダー誘導を受ける際にあらかじめ下方に誘導してもらうということもあったようです。
このようにいったん下がってここから上昇しながら射撃します。このドイツ夜戦の一般的な攻撃方法は、英軍機が後下方の視界や防御火力が弱いというほかに、射撃する時に下から翼やエンジンをねらわないと胴体に当てて爆弾が誘爆するのを防ぐという目的があったようです。誘爆を避けるのはドイツ夜戦が夜間のため接近して攻撃するためです。

この夜戦部隊の攻撃法は斜め銃になってもかわらなかったようです。下記にシュレーゲムジークの攻撃シークエンスがあります。

musik1.gif

戦争後期になるとレーダーが大型のSN2レーダーに移行したという影響もあり、Me110よりもJu88が次第にメインになっていくわけですが、爆撃機転用の夜戦の問題は機動力がないことです。たとえば英軍は夜戦を見つけたらまずひねってダイブして回避するというドクトリンを持っていました。防御放火は二の次です(そのためB17などとは違います)。そのため爆撃機が回避しようとしたときに追従しなければなりません、また後方からもぐりこんで上昇して射撃する時に引き起こしが重いと思われます。その点でもシュレーゲムジークなら、より深く潜りより浅い角度で上昇射撃できるわけです。


「ブラッカムの爆撃機」は非常によくできたテキストで、この辺の夜間戦闘が実によく描写されています。文中から少し引用します。

ふたつのうちの小さい方の影が、角度を変えてブラッカム機めがけて上昇していった。まるで深い雲の海から浮き上がってくる不気味なサメのようだった・・・(中略)・・コクピットの後方には斜め上向きにすえつけられたふたつの機銃の銃口が見える。ユンカースはウィンピーのやわらかい下っ腹にぐんぐん近づいていった。」(本文から引用)

おもしろいことにウエストールは上昇しつつ射撃体勢を取っていると原文で書いているのに「ブラッカムの爆撃機」の宮崎さんのイラストでは同航して射撃しようとしています。これは日本の方法と混同していると思われます。

日本の場合はB17のようなアメリカ製の防御が堅くて高速な機体を追尾しつつ距離をとって射撃するということを意識して同航射撃を意図しているわけです。そのためには浅い角度で取り付けられているほうが望ましいと思われます。
英軍機はあきらかに後下方が甘いので、接近して死角から攻撃するほうが有利です。また70度という角度は英軍爆撃機の持っている後方監視レーダーの範囲外にもなります。

つまり、
シュレーゲムジークは(軽武装の英軍機を)上昇しながら近接して射撃する、そのため60度という深い角度になっている
日本の斜銃の場合は(重武装の米軍機を)同航しながら距離をおいて射撃する、そのため30度という浅い角度になっている


ということがいえると思います。
もうひとつ言えることは斜め銃は日本には始めは下向きもあったということです。下向きは後になくなりますが、言い方を変えると使い方が定まってなく小園少佐が考えたアイディア兵器であったため試行錯誤して決めていったと考えられます。
一方でドイツは始めから60-70度の上向きしかなく使い方が明確に定まっていたと思われます。

日本の斜め銃はアイデアから生まれ、ドイツのシュレーゲムジークは必然から生まれた、と言ってもいいかもしれません。
posted by Y.Sasaki at 00:03| Comment(2) | TrackBack(0) | HPS : Defending the Reich | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月14日

ブラッカムの爆撃機

「ブラッカムの爆撃機」はイギリスの作家ウエストールによって書かれたもので、第二次大戦中の夜間爆撃を英軍の搭乗員の視点から書いています。原題は「ブラッカムのウィンピー」といいますが、ウィンピーはすでに旧式化しつつあったウェリントンの愛称です。

アマゾンのリンク

舞台は第二次大戦のイギリスで、主人公はウエリントン爆撃機の無線手です。物語は彼とクルーが体験する奇怪な出来事ですが、キーになるのはミッション中の爆撃機のクルーはヘッドセットごしのインターカムの音しか聞こえないという舞台設定です。この独特の世界をリアルに描写するため、かなり細かなミッションの書き込みがされています。

もともとは子供向けということですが、ウエストールの原文は当時の戦術に緻密に基づいて書かれているところが特徴です。
たとえば爆撃機が編隊を組んでいないことや、ドイツの夜戦を発見したときに行なう回避行動、また上昇しながらJu88が現れるところとか両軍のドクトリンにかなり忠実です。
たとえば昼間のB-17などは攻撃されてもボックスフォーメーションを崩さないほうがよかったわけですが、夜間の英軍機はもともと編隊を組んでいないので夜戦を見つけたら反撃するよりもまず回避機動を行なったようです。逆に言うとそのためにJu88のような本来爆撃機を転用するよりもHe219のような戦闘機が必要とされたわけです。
またドイツ軍の攻撃パターンはいったん英軍機の下に占位してから上昇しつつ射撃をするというものです。

日本では昨年あたりにこれに感銘を受けた宮崎駿さんのイラストと紹介がついて再発されています。わたしも思わずこれに惹かれて買ってしまいました。

このテーマに興味あるひとにはかなりお勧めといえます。
posted by Y.Sasaki at 22:28| Comment(0) | TrackBack(0) | ○ 図書・映画など | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Tally Ho !

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